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大阪地方裁判所 平成6年(行ウ)81号 判決

大阪府茨木市駅前三丁目一〇番二三号

原告

清和住宅株式会社

右代表者代表取締役

藤岡董

右訴訟代理人弁護士

関戸一考

大阪市中央区大手前一丁目五番六三号

被告

大阪国税局長 若林勝三

右指定代理人

本多重夫

桑名義信

宮本博

水谷稔

小冨士普一

小山雅之

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対し平成五年一〇月五日付けでした納税の猶予不許可の通知を取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、法人税の修正申告をした原告が、右修正申告により納付すべき税額の一部につき、納税の猶予の申請をしたところ、被告から納税の猶予不許可の通知を受けたことから、右通知の取消しを求めた事案である。

被告は、出訴期間の徒過を理由に、訴えの却下を求めている。

二  基礎となる事実関係

(1の事実は弁論の全趣旨によってこれを認める。2、3の事実は、当事者間に争いがない。)

1  原告は茨木税務署長に対し、平成五年八月六日、平成元年、同二年及び同三年の各事業年度の法人税の修正申告書を提出したが、右修正申告により納付すべき税額のうち国税の本税合計七億九七一七万七五九三円及び延滞税を納付しなかった。そこで、茨木税務署長は、原告に対し納付を督促するとともに、被告に対し徴収権限の引継ぎをした。

2  原告は被告に対し、平成五年八月二〇日、国税通則法四六条所定の納税の猶予の申請をしたが、被告は、平成五年一〇月五日付けで、納税の猶予不許可の通知(以下「本件不許可通知」という。)をした。

3  原告は、同年一〇月八日、本件不許可通知に対する異議申立てをしたが、被告は、平成六年一月六日、右申立てを棄却した。そこで、原告は国税不服審判所長に対し、平成六年一月一八日、本件不許可通知につき審査請求をしたが、同所長は、同年六月二七日、原告の審査請求を棄却する旨の裁決をし、右裁決の裁決書の謄本は、同年七月七日原告に送達された。

三  被告の本案前の主張

行政事件訴訟法一四条四項、一項によれば、審査請求をした者は、裁決があったことを知った日から起算して三か月以内に取消訴訟を提起することを要し、この場合、出訴期間の計算は、裁決があったことを知った日を初日とし、これを期間に算入して計算すべきである。そうすると、原告は、遅くとも平成六年一〇月六日までに本訴を提起すべきところ、同月七日に提起したものであるから、本件訴えは不適法である。

四  原告の主張

1  被告の本案前の主張に対する反論

行政事件訴訟法一四条一項の出訴期間を計算する場合には、初日を算入しないのに、同条四項により出訴期間の計算をする場合については、これと異なり、初日を算入しなければならないとする合理的理由はない。したがって、本件の出訴期間は、同法七条、民訴法一五六条、民法一四〇条に従い、原告が裁決のあったことを知った日の翌日から起算すべきであり、本件訴えは適法である。

2  本案に関する主張

原告代表者は、当時通院中であったところ、法人税法違反容疑で逮捕、勾留され、病院に行くことも禁じられ、薬も与えられず、心身ともに衰弱した状況下で、検察官から脱税の事実を認めるよう不当な取調べを受けたため、正常な判断能力、意思能力を失った状態で、修正申告に応じた。しかも、保釈後に調査した結果、右修正申告が過大であることが判明したところ、原告代表者は、修正申告書に署名した当時は、資料もすべて押収されていたため、その内容を確かめることもできず、正しいものと信じ込まされて署名したもので、その内容には重大な誤りがあった。

したがって、原告代表者がした修正申告の意思表示は正常な意思能力のない状態でされたものとして、また、錯誤に基づくものとして無効であるから、本件不許可通知は違法である。

第三本案前の主張に対する判断

行政事件訴訟法一四条四項、一項を適用して取消訴訟の出訴期間を計算する場合には、裁決があったことを知った日を初日とし、これを期間に算入して計算すべきものと解するのが相当である。(最高裁昭和五二年二月一七日第一小法廷判決・民集三一巻一号五〇頁)。原告は、右の出訴期間は、裁決があったことを知った日の翌日から起算すべきであると主張するが、「裁決があったことを知った日………から起算する。」旨特に定めた同条四項の文理に照らし、採用することができない。

これを本件についてみると、本件不許可通知に対する原告の審査請求について、平成六年六月二七日棄却の裁決がされ、右裁決書の謄本は同年七月七日原告に送達されたことは、当事者間に争いがない。そうすると、右日時に右裁決書は原告の了知しうべき状態におかれたものというべきところ、本件訴えが、同日から三か月を経過した後である同年一〇月七日に提起されたことは記録上明らかである。したがって、本件訴えは、原告が前記裁決の存在を知った日から起算して、三か月の出訴期間を徒過して提起されたものとして、不適法といわざるを得ない。

(裁判長裁判官 福富昌昭 裁判官 倉吉敬 裁判官 氏本厚司)

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